あるバジリスクは自分達の醜い魔獣の姿を誰よりも嫌悪していた。その同族嫌悪ぶりは魔獣の姿を持たずに生まれた｜“なり損ない”《ウィークリング》を伴侶にするという徹底したもので、同族からも変わり者扱いされていた。そんな人物だったので、生まれてきた娘がなり損ないだったことを寧ろ喜び、自身の後継として育てるべく不自由のない暮らしと学びの機会を与えた。
娘が成人を迎えると、配下を与え、思うままに蹂躙してみせよと手頃な人族の村へ差し向けた。

　それが成人の祝いであると同時に試練だと理解していた娘は、務めを全うする為、人族とほぼ変わらない姿を利用して侵攻予定の村へ偵察に向かった。生まれて初めて対等な立場で人族とその社会に触れた娘は気付いてしまった。人は搾取されるだけの家畜ではなく、自分達と同じように考え、学び、懸命に生きていることを。自分達、蛮族はその成果だけを奪い取っているだけの何も生み出さない者だということを。

　娘は深く悩み、襲撃を断念しようとしたが、その決定に配下の妖魔達は従わず、彼らの独断で襲撃は決行されてしまった。制止の為に後を追った娘だったが、皮肉なことに助けようとした村人に手傷を負わされる結果となった。これが大きな失望を招き、娘は後継の資格を剥奪され、ついには邪眼の力で物言わぬ像とされた。

　それから何年もの月日を経て、娘の像は人族の社会に運び込まれていた。まるで生きているかのように美しい像だと高値で取り引きされていたが、ある時、“解放者”を自称する流浪の彫刻家によってその正体が看破され、神殿へ持ち込まれたことで娘は自由を取り戻した。

　自身の出自と罪を告白し、償いを申し出た娘だったが、物言わぬ像と化していた間に10年もの歳月が経過していたことが判明する。もはや償う相手も定かではなく、それならばせめてもの贖罪にと、娘は神への祈りと秩序の守り手としてその身を戦いに捧げる道を選ぶのだった。[---]